感染症科とは?

細菌、ウィルス、真菌、原虫や寄生虫などによる感染症の診断および治療を行う診療科です。
これらの疾患中には人にも感染する病気(人獣共通感染症)もあり、公衆衛生上の観点からも予防を行うことは重要です。しかし、何らかの理由で予防ができず、感染・発症することもあるため、細心の注意を払うことがとても重要7です。

代表的な感染症

  • 狂犬病
    狂犬病ウィルスによる人獣共通感染症です。すべての哺乳類が感染し、発症した場合致死率はほぼ100%で公衆衛生学的に非常に重要な感染症です。日本では、狂犬病予防法により国内で飼育しているすべての犬に対して、年1回のワクチン接種が義務付けられています。
  • 犬ジステンパー
    伝播力が非常に強い犬ジステンパーウィルスに感染して起こる疾患です。感染経路は呼吸器、糞便、尿中に排泄されたウィルスが飛沫核となり空気伝播します。臨床症状として、二峰性の発熱、鼻汁、くしゃみ、結膜炎、食欲減退、白血球減少、嘔吐、下痢、ジステンパー脳炎を認めます。ワクチン未接種の若齢犬では致死率が高い病気です。診断は抗原検出を行います。治療は対症療法と二次感染対策です。ワクチン接種による予防がとても重要な疾患です。
  • 犬パルボウィルス感染症
    体外における抵抗力が強いウィルスで、室温で何か月も感染性を保持し、通常の消毒剤では死滅しない強毒なウィルスです。感染源は感染動物の排泄物(嘔吐物、糞便)やそれに汚染された器物です。症状は、食欲減退、嘔吐、出血性の下痢、汎白血球減少、DICで幼若の子犬ではほぼ死亡してしまいます。診断は抗原検査で、治療は対症療法やインターフェロンの投与を行いますが、致死率が非常に高い病気です。ワクチン接種による予防が重要です。
  • ブルセラ病
    ブルセラ属菌によって引き起こされる人獣共通感染症です。犬での特徴的病変は子宮および胎盤に見られ、不妊、死産、早流産が引き起こされますが、感染した犬の多くは無症状のまま長期間菌を保有し、新たな感染源となります。犬由来のブルセラ属菌による人への感染も報告されているため注意が必要な感染症です。
  • レプトスピラ症
    病原性レプトスピラ感染に起因する細菌性人獣共通感染症です。自然界ではげっ歯類をはじめとする野生動物が保菌者であり、それら動物の尿に含まれるレプトスピラ菌に汚染された土壌や水に接触した動物が、経皮的に感染することが多いです。発症した犬は急性肝不全、腎不全をおこし、しばしば致死的です。回復後は新たな感染源となる可能性があるため、注意が必要です。予防にはワクチン接種が有効であるが、異なる血清群のワクチンは有効ではないとされています。
  • バベシア症
    マダニによって媒介されるバベシア原虫が宿主の赤血球に感染し増殖することで引き起こされる。原虫種はBabesia gibsoniB. canisです。日本ではB.gibsoniが九州~東北地方に、またB.canis vogeliが沖縄に分布しています。病因は赤血球破壊による溶血性貧血で、粘膜の蒼白と発熱が主症状です。治療はジミナゼンの投与により、また本症はマダニを駆除することで予防します。
  • 犬の内部寄生虫感染症
    ジアルジア症:消化管、コクシジウム症・クリプトスポリジウム症:消化管、ネオスポラ症:神経・筋肉、瓜実条虫症・マンソン裂頭条虫症:消化管、回虫症・鉤虫症:消化管、フィラリア症:心臓
  • 犬の外部寄生虫症
    疥癬、耳ダニ症、ニキビダニ症、ノミ感染症、マダニ寄生と媒介性疾患
  • 犬の真菌感染症
    マラセチア症、皮膚糸状菌症
  • 猫汎白血球減少症
    パルボウィルスの感染が原因で発症するウィルス性の伝染病です。成猫では不顕性感染が多いが、免疫のない子猫は急性ないし甚急性の経過を取る重篤な疾病です。症状として発熱、腹痛、元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢が発生します。白血球が減少し、エンドトキシンショックを伴う敗血症とDICが原因で75~90%の症例で死亡する恐ろしい病気です。
  • 猫カリシウイルス感染症
    カリシウィルスによる急性呼吸器病で、口腔内潰瘍、鼻汁、流涙、眼脂、微熱が症状として発現します。一部の猫は慢性の呼吸器病がしばらく続き、中には終生にわたって症状が続く慢性持続性ウィルスキャリアとなってしまいます。
  • 猫ウィルス性鼻気管炎
    猫ヘルペスウィルスの感染により食欲不振、発熱、くしゃみ、鼻汁、流涙、眼脂、結膜炎、流涎、発咳、潰瘍性角膜炎が症状として発現します。通常2~3週間ほどで回復しますが、一部の猫では慢性化し、ほぼ全ての猫では生涯続く潜伏性ウィルスキャリアとなります。
  • 猫白血病ウィルス感染症
    猫白血病ウィルス感染により持続性ウィルス血症を呈した猫に様々な疾患が発生する予後不良の感染症です。免疫抑制、貧血、骨髄異形成症候群、リンパ腫や白血病のほか、免疫介在性疾患、慢性腸炎などが認められます。治療には支持療法と看護が必要です。感染猫と非感染猫との隔離およびワクチン接種により予防を行います。
  • 猫免疫不全ウィルス感染症
    猫免疫不全ウィルスによる感染症で、典型的な症状は慢性口内炎・歯肉炎、慢性鼻炎、リンパ節症、体重減少が挙げられます。一方で、感染しても数年間臨床症状がみられない場合や、発症しない猫も存在します。
  • 猫伝染性腹膜炎
    猫コロナウィルス感染が引き金となって起こる免疫介在性疾患です。ほとんどの猫は生後すぐにコロナウィルスに暴露されますが、この感染は問題となることがほとんどありません。その後、他の猫との接触しコロナウィルスへの再暴露や腸管持続感染をしていくうちに、体内持続感染している弱毒株ウィルスから強毒の猫伝染性腹膜炎ウィルスへ派生して発症します。脈管炎、腹膜炎、髄膜脳炎などを病徴として死の転帰をとってしまう恐ろしい感染症です。
  • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
    マダニ媒介性の人獣共通感染症です。発熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少などがみられ、死亡例も多く認められます。発症した猫では血液や糞便からウィルスが検出されており、獣医療従事者はその取扱いには十分な注意が必要です。
  • 猫クラミジア症
    1歳齢以下の猫にみられ、主な症状は結膜炎ですが、くしゃみや鼻水などの上部呼吸器症状を示すこともあります。ほとんどの場合、全身症状は認められませんが、一過性の発熱、食欲不振および体重減少が認められることもあります。感染猫の眼分泌物や鼻汁と接触することにより感染します。テトラサイクリン系の抗菌薬で治療が可能です。
  • 猫ひっかき病
    病原体はBartonella henselaeで、猫の赤血球内に寄生している細菌です。猫では通常、臨床症状は示さないで保菌しています。猫がグルーミングの際に歯や爪を汚染し、その猫が人を引っかいたりかみつくことで創傷感染する人獣共通感染症です。
  • ヘモプラズマ感染症
    マイコプラズマによる感染症で、溶血性貧血に関連した症状を示します。感染経路はまだ解明されていません。発症には基礎疾患を有していることが危険因子とされており、特に猫免疫不全ウィルスや猫白血病ウィルスに感染している猫で発症例が多いと言われています。
  • トキソプラズマ症
    トキソプラズマといった原虫による人獣共通感染症です。典型的な日和見感染症で猫が感染しても無症状であることが多いです。しかし、子猫や免疫力が低下している場合などでは呼吸器症状、消化器症状、脳炎、ぶどう膜炎などを発症してしまいます。病原体がどの臓器で増殖するかにより臨床症状は様々であり、確定診断が難しい疾患です。ワクチンはないため、猫を室内飼いにすることや生肉を与えないことが感染予防方法として重要です。
  • クリプトコッカス症
    クリプトコッカス属の酵母様菌による感染症で猫で多くみられる人獣共通感染症です。上部呼吸器の症状が主で、これらは鼻汁排出、くしゃみ、鼻梁部の硬い腫脹が認められます。また下顎リンパ節の腫脹が認められ、頭部や他の体表の皮膚に肉芽腫性の病変を形成する場合もあります。感染が拡大すると気管支炎、肺炎、発作や運動失調などの神経症状や網膜炎を呈することもあります。
  • 猫の内部寄生虫感染症
    ジアルジア症、トリコモナス症、コクシジウム症、クリプトスポリジウム症:消化管、瓜実条虫症、マンソン裂頭条虫症、回虫症、鉤虫症:消化管、フィラリア症:心臓
  • 猫の外部寄生虫症
    疥癬症、ツメダニ症、ハジラミ症、耳ダニ症、ノミ感染症
  • 猫の真菌感染症
    皮膚糸状菌症